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2009年09月30日

リズム

 塾に通うようになったサトはますます忙しくなった。部活を終えて帰宅すると、
夕食もそこそこに、自転車で塾に向かう。 塾は徒歩で5分ほどの所にあるが
のんびり歩いていては、遅刻してしまう。
 我が家では毎日のように、家族が揃って夕食をとっていたが、サトが塾に通う
ようになって、一緒に夕食を摂る事が難しくなった。
私はサトの帰る時刻に合わせて、夕食を用意する。いつもの夕ご飯の時間
には早過ぎ、取りあえず、サト一人分をこしらえる。

 子供が塾に行くようになると、家族の生活のリズムも変わってしまうものなんだ
と思い知らされた。普通の学習塾でこの調子だ。サトの言う私学へ行くための塾
に行くようになったら、我が家の生活はどうなってしまうのか? 暗澹たる思いが
した。
 
 ある日、塾へ出かける前に、あわただしく食事をしながら、サトが言った。
  
 「お母さん、昨日からK君も塾に入った来たよ。」
 「ええっ! あのいじめっ子のK君?」

posted by たかママ at 23:01 | Comment(0) | 日記
2009年09月29日

両立

 翌日、改めてサトと塾について話し合った。

 「サトがPLに行きたいという気持ちを聞いて、お母さんとよく話し合ったよ。
  今の成績では、私立の高校は受験しても、受かるのはなかなか難しいと
  思うよ。それに、塾に通ったからといって、必ず受かるとは限らないのは
  分かっているよね。」
 「ウン、分かっているよ。だから、塾で勉強して受験できるようにしたいんだ。」
 「そう。それじゃ、野球はやめるの?」
 「ううん、やめない。」
 「部活と塾の両立は大変だろう? それは、お父さん、無理だと思うけど。」
 「・・・・・・。」
 「取りあえず、最低でも公立高校に確実に入れるくらいの成績が取れるくらい、
  学力を付けなくてはいけないと思うのよ。最初は、背伸びしないで、学校の
  授業をサポートして貰える塾にしたら、どう?」
 「そうだなぁ。そこで、力をつけて、おいおいにレベルを上げられば、私学
  受験も可能になるだろうしな。」
 「サト、どう思う?そうすれば野球も続けられるんじゃない?」

 話し合った結果、サトはあまり有名でない、家から程近い塾に通う事に
なった。

posted by たかママ at 22:32 | Comment(0) | 日記
2009年09月27日

憧れの的

 「サトの希望が叶うように、どうしたら良いか、一晩よく考えてみるよ。」
翌日、再度話し合う事にした。

 「驚いたなぁ。サトが私学を受験したいと思っていたなんてさ。まだ
  中1だろ。
  今から、進路の事、決めなくてはいけないのか?」
 「早い人は、将来を見据えて小学生の時から、塾に行かせているわよ。
  多分、サトは今だけの思い付きじゃないかしら。また、違う希望が出て
  くるんじゃないかと思うのよ。野球少年にとっては、甲子園に行ける
  有名私学は、憧れの的なのよね。」
 「だからって、頭から反対するわけにもいかんだろう?」
 「今でも、あんまり成績良くないし、取りあえず、進学塾じゃなく、普段の
  授業をサポートして貰えるような塾はどうかしら?」
 「そうだな。とにかく、公立高校に受かるくらいの学力は最低限つけ
  なくてはな。私学の問題はその次だな。」
 「それにしても、私学に行かせるとなると、学資が大分掛かりそうだし、
  必死で働かなくてはいけないわねぇ・・・。」

私は思わず、ため息をついた。

posted by たかママ at 20:20 | Comment(0) | 日記
2009年09月24日

希望

 仮に、塾で学力がアップしても、受験しても受かるとは限らない。それに、
非力なサトが、厳しいので有名なPL学園の野球部でやっていけるとは思え
なかった。今でも、チームメイトの中では一番小さいし、レギュラーのポジション
を取るのも難しい状況だなのだ。
 親としては、我が子の希望を叶えてやりたいとは思ったが、やはり、それは
出来ない相談だった。どうにかして、サトのPL学園へ行きたいという気持ち
を翻させなければならない。それを考えると、頭が痛かった。

 「PL学園て、大阪でしょう? 家から通えないわよ。」
 「大丈夫。PL学園の野球部は全員、寮に入るから、通学の心配はないん
  やで。」
 「そうなの? でも、受験して受からなければ、話にならないわね。それに、
  PLで野球をやりたいと思うのなら、今のチームでまずレギュラーを取らなくて
  いけないんじゃない? それと、勉強の両立、出来るの? 偏差値も高そう
  だし、難しいわよ。」
 「うん・・・・・。でも、僕、頑張るから。」
 「そう。サトの気持ちは良く分かったから、今晩、お父さんと相談して
  みよう。」

 その日の夕食後、サトと一緒に昼間、話し合った事をKに伝えた。
Kは想像だにしなかったサトの思いに驚いた様子だった。

posted by たかママ at 21:41 | Comment(0) | 日記
2009年09月23日

PL

 Cさん親子のやり取りを聞いて、“この親にして、この子あり”とは、こういう
事を言うのかと、私はしみじみ思ったものだ。この、忘れ物をしても意に
介さない大らかさが、かえってクラスメートのいたずらっ子の標的になった
のかもしれない。
 
 この短パン事件から、しばらくして、サトが塾に行きたいと言い出した。
 
 「塾って進学塾? 私立の高校に行きたいの?」
 「うん。僕、PL学園に行きたいんだ。」
 「ええっ! PL学園? あの桑田や清原の通っていたPL?」
 「うん、そう。PLに行って、野球部に入りたいんだ。」
私は思わず、“サトには無理、無理”と言いかけて、言葉を飲み込んだ。

 当時、PL学園は甲子園の高校野球大会での常勝チームで、野球少年の
憧れの高校だった。サトもご多分にもれず、憧れていたのであった。
 しかし、サトの学力では今から塾で頑張っても、私立の高校を受験するだけ
の学力が付くかどうか? 無理なのは火を見るより明らかだった。それに、
とても私学にやれるだけの経済力は我が家には無かった。

posted by たかママ at 20:53 | Comment(0) | 日記
2009年09月22日

25,000円

 息子は悪びれる様子も無く、淡々と答えている。Cさんはあきれ果てて、
怒るのを忘れてしまった。
 S君は、何かに夢中になってしまうと、自分の世界に入り込んでしまい、
周りのものが見えなくなってしまう。はたと我に返っても、“過ぎてしまった事
だし、まあ、しゃあないやん。“と、何も気にしない。この性格は自分に似ていて、
仕方が無いとCさんは諦めて、月謝は自分で直接、塾へ持って行ったそうだ。

 そんな話をCさんに聞いて、私は気になっていた事を尋ねた。

 「だって、月謝って少ない金額じゃないでしょう?」
 「そうやなぁ、25,000円かな。」
 「25,000円? 大金じゃない! そのお金で、S君はどんな本を買った
  のかしら?」
 「まあ、いろいろらしいで。うちは見てへんから、何の本を買うた(こうた)か、
  分かれへんけど。たぶん、勉強に必要な参考書やと。思うわ。」
 「子供を信用しない訳ではないけれど、どんな本を買ったのか、確めなく
  てもいいの?」
 「大丈夫。うちはあの子を信用しているし、まあ、買うたんが本やしな。
  見んでもええやろう。」

posted by たかママ at 22:21 | Comment(0) | 日記
2009年09月20日

本屋

 「あんた!! 今まで、どこに行ってたん!?」
 「どこって、塾に決まってるやん。」
 「何で、そんな嘘つくの? さっき、塾から電話があったで。最近、ずっと
  休んではるんは、病気ですか?って聞いてはったわ。月謝もまだ払って
  へんのやって? そのお金、どうしたん?」
 「・・・・・・。」

 Cさんはもう一度、ゆっくりひとつずつ、息子に質問していった。
 「とにかく、今日は塾に行かないで、どこへ行っていたんや。」
 「本屋。」
 「本屋? 今まで、本屋にす〜っと居たって言うんか?」
 「ウン、塾に行く前に時間があったし、立ち読みしていた。」
 「立ち読みしていても、時間になったら、塾に行かなあかんやろ?」
 「本、読んでいたら夢中になって、時間が遅うなって塾を休んでもうた。」
 「この前も、そのまた前も塾に行かんと、本屋に行ってたんか? それで、
  塾の終わる時間に合わせて、知らん顔して、帰ってきたんか?そんな事
  して、お母さんを騙せると思うてたんか?」
 「・・・・・・。」
 「月謝のお金はどうしたんや?ちゃんと、持ってるやろな?」
 「それが・・・・・・。買いたい本があったし、それを買った。」

posted by たかママ at 19:28 | Comment(0) | 日記
2009年09月17日

 “もう21時やな。そろそろ、Sが帰ってくる時間やわ” S君のお母さんの
Cさんは居間の時計に目をやった時、電話のベルが鳴った。電話はS君の
通っている塾からだった。
 
 「S君、どこか具合でも悪いんですか?」
 「いいえ、元気ですけど。塾で何かあったんですか?」
 「いいえ、それならいいんですけど、此処の所、ずっと休んではるんで、
  病気でもしてはるんやないかと思って連絡したんです。今月分の月謝も
  まだですので、今度、塾に来はる時にお願いします。」

Cさんは自分の耳を疑った。週2回の塾には休む事なく出かけていたはず
だし、渡した月謝もまだ入金されてないという。どうなってんのやろう?不安に
なった。今日も、少し早めに出かけていったのに、一体どこに行ってんのやろ?
程なくして、S君が帰ってきた。Cさんは知らん顔をして、息子に聞いた。

 「塾、どうやった? 模擬テストも近いんとちゃうん? まだ、日程決まって
へんの?」
 「うん、まだ・・・。」
何食わぬ顔で答える息子に、Cさんの怒りは頂点に達した。

posted by たかママ at 22:38 | Comment(0) | 日記
2009年09月16日

S君

 S君は、元々ユニークな子で、小学生の時に時々、我が家にも遊びにきて
いたが、他の子がテレビゲームに夢中になっている側で、ゴロンと横になって、
本を読んでいた。
 仲間と一緒にいても、心、此処にあらずで声をかけても上の空、ただ一人
自分の世界にいた。そんなS君をクラスメイトは何の違和感も無く、受け入れて
いた。中学生になって、他の小学校からきた子達にとって、S君は変わり者に
写ったようだ。

 S君にはT君という年子の弟がいる。T君は少年野球の時、サトと一緒だった。
T君は兄のS君と正反対の性格のように見受けられた。合宿に行く時のバスで、
自分の趣味は貯金だといった時には、周りの大人は驚き、感想を漏らした。

 「兄弟、揃ってユニークやなぁ。」
 「お母さんに似てはんねんなぁ。」

 S君とT君のお母さんは、二人の兄弟を心底、信頼していた。親だから、
子供を信頼するのは当然の事だが、お母さんは他の母親のそれとは比較に
ならないくらい子供達を信じていたのであった。
 
しかし、S君がお母さんの信頼を裏切ってしまったのである。それは、短パンの
事件から、間もなくの出来事だった。

posted by たかママ at 22:44 | Comment(0) | 日記
2009年09月15日

自分の世界

 私の話を聞いたS君のお母さんは、かなりショックを受けたようだ。

 「Sは小学生の時から、忘れ物が多くて困っているんやわ。今度の事も、
  短パンを持って行かへんかったから、パンツを見られて、苛められる
  原因を自分から作ってしまったんやなぁ。いつも息子が何も言ってくれ
  へんから、学校で必要な物も充分に用意してやれないんやわ。ほんまに
  困ってしまうわ。」
 「サトも忘れっぽいわよ。年中、忘れ物は? 確認は? って、うるさく
  言っていてもいいかげんよ。」
 「Sは自分の世界に入り込んでしまうと、全く周りに事が目に入らなく
  なってしまうんやわ。なんぼ聞いても、ウンウンと上の空で、聞いて
  いるんやら、聞いてへんのやら・・・。きっと、学校でも先生の言う事を
  聞いてへんのやろと思うわ。でも、一緒にやった子らは、誰一人謝って
  くれへんのよ。H君のお母さんにも、さっき会ったけど、子供の悪ふざけ
  やからって、シャーシャーとしてはって、ムカッときたわ。」
 「気持ちは分かるけど、一応、先生が始末書も書かせて、二度としないと
  約束したのだから、もう収めたら?」
 「そやな、元はといえば、うちのSがぼんやりしてたのが原因やったし、ま、
  しゃーないな。」

posted by たかママ at 22:22 | Comment(0) | 日記
2009年09月13日

いきさつ

 「サトに悪気がなくても、S君は傷ついていると思うよ。後で、ちゃんと
  誤るのよ。」
 「ウン、分かっている。僕も悪い事をしたと思っているんだ。これから
  S君の家に行って、誤って来る。」
 
 そう言うなり、サトは自転車で飛び出して行った。
程なくして、S君のお母さんから電話が入った。
 「今、ちょっと前に、サト君が謝りに来てくれはったわ。」
 「本当に申し訳なかったわ。親の私からも謝ります。二度とこのような事が
  無いように、サトには厳しく注意したので許してちょうだい。」
 「許すも許さへんも、サト君はたまたま通りかかって、巻き込まれたと、
  先生から聞いたわ。それにしても、子供のいたずらにしては、えげつない
  ことしはるなあ・・・。」
 「その件だけど、昨日、健康診断があったの、知ってた?」
 「そんなん、あったん? Sは何も言わへんから、知らんかったわ。」
 「男子は短パンを持って来るように言われたんだけど、S君は短パンを
  忘れて、パンツのままで健康診断を受けたみたいよ・・・。」
私は、サトから聞いた悪ふざけに至った、いきさつを説明した。

posted by たかママ at 22:08 | Comment(0) | 日記
2009年09月10日

短パン

 サトは始末書を書き、私は二度とこのような事が無いように注意をすると
いう事で、学校を出た。
 帰宅後、サトに、どうしてS君を羽交い絞めにしたのか、聞いた。
 
 「S君とは、小学校の時から一緒だったでしょう? どうして羽交い絞めに
  して、ズボンを脱がそうとしたの?」
 「僕、始めは何の事だか知らなかったんだ。側を通り掛かったら、後ろから、
  押さえつけろと言われたから、手を貸したんや。ふざけていると思ったし、
  まさか、ズボンを脱がすとは思わへんかったんや。」
 「でも、どうしてズボンを脱がそうとしたのかな? ふざけるにしては度が
  過ぎていると、お母さんは思うんだけど。」
 「僕も始めは単なる悪ふざけと思ったんだけど、皆は下に穿いているパンツを
  見ようとしたらしいんだ。」
 「どうして、わざわざパンツを見ようと思ったのかな?」
 「昨日、健康診断があったでしょう。S君は短パンを忘れはって、パンツ
  一枚で健康診断を受けたんだ。その時、パンツにおしっこの後が付いて
  いて、黄色くなっていたんやて。僕は気が付かへんかったんやけど。
  今日も、また黄色くなってるんとちゃうか?って、ズボンを脱がして、
  見ようとした所に、僕が来たって訳。」

posted by たかママ at 21:40 | Comment(0) | 日記
2009年09月09日

呼び出し

 サトのクラス担任から呼び出しがあった。何が起きたのか不安な気持ちで
学校へ行った。 放課後の教室には、担任がサトと一緒に私を待っていた。

 「何か、あったのでしょうか?」
 「お母さんも、S君をご存知ですよね。」
 「小学校の時の同級生だったS君ですか?」
 「そうです。実は5、6人のグループがS君のズボンを脱がそうとしたんです。 
  その時、サト君はS君を羽交い絞めにして押さえ付けていたんです。」
 「ええっ!? どうして、また、そんな事を・・・。パンツも脱がしたんですか?」
 「いえ、ズボンだけでした。女生徒が知らせてくれたので、事無きを得たん
  ですが。」

傍らのサトは、神妙な顔をしてうつむいていた。
 「ふざけてやったとは思いますが、人の痛みを一番知っている筈のサト君が
  そんな悪ふざけに加担した事が、私にはショックでした。なぁ、そうだろう?」

同意を求めるように、担任はサトに視線を向けた。サトは罰が悪そうに、うんうん
と頷いて、私の目を見ていた。

posted by たかママ at 21:07 | Comment(0) | 日記
2009年09月08日

話題

 「あんた、首吊りしてはるとこ、ほんまに見たん? 」
 「うん、まあね。」
 「こわ〜無かった? 度胸、有んなぁ。」
 「別に、顔を見た訳じゃないし、見えたのは茶色っぽいパジャマのズボン
  だけよ。
 「新聞にでていたけど、入院してはったらしいな。」
 「そうらしいわね。病気の事を気にして、先行きを悲観したみたいね。
  残された家族はたまらないわねぇ。」
 「近所でそんな事あったなんて、気持ち悪いなぁ。怖くて夜は歩けへんのと
  ちゃう?」
 「そうねぇ。でも、事件のあった古倉庫は、藪の中だし、向かい側はお茶畑で
  あまり側を通る事もないし、たいした事ないわ。」

 とは言うものの、しばらくの間は、通行中の人が立ち止まって、恐る恐る
覗き込んだり、車を止めて身を乗り出して見る人がひきも切らなかった。

 この一件は、サト達、中学生の間でも話題になったようだ。人の噂も
何とやらで、その中に立ち消えになった。すっかり忘れた頃に思い出す事に
なるとは、その時は思いも及ばなかった。

posted by たかママ at 21:51 | Comment(0) | 日記
2009年09月06日

倉庫

 パトカーから、2、3人の警察官が慌てて降りて、雑草をかき分けながら、
倉庫の中へ入っていった。壁は朽ちて、屋根は抜け落ち、かろうじて骨組み
だけが倉庫の形を残していた。警察官は脚立を持ち出して、ぶら下がって
いる人を下ろそうとしていた。天井の梁は高く、とても脚立に上ったくらいでは、
下ろす事が出来なかった。
 まもなく、レスキュー隊が到着、ようやく遺体を降ろすことが出来た。簡単な
検分の後、救急車に収容され、病院へ搬送された。

 翌日の地元の新聞に載った記事によると、 この人は40代のの男性で、
心の病気を患って長い間入院していたという。2、3日前、入院していた
病院を抜け出し、土地勘のあるこの街に来たようだ。行方が分からなくなって、
心配した家族や病院から、捜索願いが出されていた、矢先の出来事だった
そうだ。

 近所ではしばらくの間、その話題で持ち切りだった。私が現場を見たという
事を聞きつけた友人は、興味本位で電話をかけて来た。

posted by たかママ at 22:07 | Comment(0) | 日記
2009年09月03日

サイレン

 何だか、表通りがざわついている。手書き友禅の手を止め、カーテンの隙間
から覗いて見た。小走りで駆けて行く人、立ち止まって遠巻きに何かを見ている
人等。私は気になって外へ出て、皆の視線の方向を見た。
 我が家から、5、60メートルほど離れた向かい側の竹やぶのはずれに、一台
のバイクが止まっていた。バイクの止めてある奥には、今にも崩れ落ちそうな
古びた農業用の倉庫が建っていた。
 
 「何かあったんですか? あれは、警察のバイクみたいですね。」
倉庫のほうを振り返りながら、歩いて来た男性に尋ねた。
 「警察官が来てはるみたいや。首吊りがあったとか言ってはったな。」
 「ええっ! 本当ですか? 見たんですか?」
 「いいや、こわ〜て(恐くて)見れへんがな。」

 私は、恐る恐るバイクの止めてある所まで行ってみた。屋根の抜けた茶色
の鉄骨がむき出しになっている、倉庫の屋根から、茶系のパジャマらしき
ものがぶら下がっているのが、伸びきった雑草の間からかすかに見えた。
そのパジャマの下では、警察官が無線で交信している様子だった。
 程なくして、けたたましいサイレンと共にパトカーと救急車がやって来た。

posted by たかママ at 22:18 | Comment(0) | 日記
2009年09月02日

職員室

 元々、サトは理科が不得手だったが、中学生になってその傾向は、益々顕著
なっていた。国語や英語は、まだ私が教える事ができたし、得意な社会は問題
なかった。しかし、数学や理科、特に物理や化学は、とても手に負えるもの
ではなかった。
 テストが近づくと、サトは理科の教員室の担任の横にチョンと座り、個人教授
のように、マンツーマンで教わりに行っていた。サトの人懐っこさに理科の先生
は嫌がる事もなく相手をしてくれていた。そんな様子に、周りの先生は反応した。
 「今日も来ているのか? 生徒は大体、職員室に入るのも嫌やと思うのに、
  何とも無いんか? 珍しい子やなぁ。」

 サトは毎日のように帰ってくるなり、その日の出来事を報告してくれていたが、
理科の教員室に行った日は、特に嬉しそうだった。
 「毎日、職員室で先生にべったりくっ付いていたら、迷惑になるんじゃないの?
  クラブ活動もあるんでしょう?理科の先生はクラブの顧問はしてないの?」
 「何時でも来て良いって言ってはったし、ええねん。今はテスト直前だから、
  クラブ、休みやし。それに、今日から出入り禁止になってるんや。」
 「でも、どうして、テスト前だと出入り禁止になるの?」
 「テストの問題を、僕に見られたら困るやん。この期間はどこの職員室も、
  生徒は出入り禁止になっているんだよ。」

posted by たかママ at 22:37 | Comment(0) | 日記
2009年09月01日

ズボン

 「本当に、タエちゃんには申し訳ない事をしました。すみませんでした。」

S先生は、深々と頭を下げた。 私は、何事が起きたのかと驚いた。

 「あの〜、タエに何かあったんですか?」
 「実はクラスの男子が、タエちゃんのスカートやタイツ姿が珍しいと、
  足を撫で回してしまったのです。それで、タエちゃんがビックリして、
  泣き出してしまって。」
 「まあ、そんな事があったんですか。スカートをはいた事の無い子ですから、
  きっと珍しかったんですね。子供さんのした事ですから、他意はないと
  思いますよ。」
 「私も、そうは思っているんですが、あれ程までに男の子たちが、珍しがる
  とは予想もして無かったものですから、驚きました。もちろん、子供達には
  よく注意しておきましたので、二度とこういう事は無いと思います。」
 「子供さんのした事ですから、先生も、もう気になさらないでください。
  タエも、もう平気でしょう?大丈夫よね。」
  「うん、大丈夫。すぐに、ズボンに着替えたし、もう平気。」

そう言うなり、タエはきびすを返して、自分の席に戻っていった。以来、
タエは小学校在学中、ただの一度もスカートを穿く事は無かった。というより、
一枚もスカートを持っていなかったのである。(卒業式の時の例外を除いて
だが・・・。)

posted by たかママ at 22:22 | Comment(0) | 日記
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